植物や農作物の栽培方法の一つとして知られる「有機栽培」。正確な定義はわからなくとも、有機という言葉のイメージから「体にも自然にも良さそう」、「農薬を使っていない栽培方法」など、漠然としたイメージを抱いている方も多いのではないでしょうか。
実は、有機栽培は地球や作物への深い愛情と知識がなくては続けることは難しく、知れば知るほど地道で困難なもの。今回は、ネイチャーズウェイの自社農場である「ネイチャーズウェイ明野ハーブ農場」スタッフであり、コラム「農場だより」でもおなじみの荒木さんにお話を伺いました。
まずは有機栽培の定義から! 有機JAS認証も取得している自社農場について
荒木さんは、前職で農業関係の仕事をしていた経歴から、ハーブの栽培に関わる「開発調査室」への配属を志望していたとのこと。そんな荒木さんにまず、有機栽培について教えていただきました。
—―さっそくお話を伺いたいのですが、「そもそも有機栽培とは何か?」から教えていただきたいです。
荒木さん:(以下、敬称略)まず、有機栽培の概念からお話ししますね。
有機栽培とは、“環境に負担をかけない方法で農業を営む”ということです。
ネイチャーズウェイの明野ハーブ農場では、農薬や化学肥料・その他の化学物質に頼らず、肥料には牛や鳥の糞を集め発酵させて作る堆肥(たいひ)や、「ぼかし肥」と呼ばれるハーブの使わなかったところを積み重ねて作られた肥料を使っています。
また、除草剤や害虫駆除剤も使用せず、生い茂った雑草や繁殖した害虫は、その都度手作業や草刈り機で取り除いています。また、梅雨の時期には湿気が充満してハーブが病気になってしまうこともあるので、ある程度必要のない枝葉を取り除くなど、風通しを良くしてあげる作業も行っています。
さらに、本来なら植物が病気になったときは農薬を使って治すのですが、農場の長である山口農場長のこだわりもあり、明野農場では農薬を一切使用していません。
—―思いの外、手作業が多く驚いています…!ネイチャーズウェイの有機栽培とは、人と自然の力を借りてハーブなどの栽培を行うということなんですね。
荒木:
そうですね。一般的な栽培では、農薬や化学肥料・化学物質などを使って合理的にたくさんの作物を作るのですが、それとは労力も時間のかかり方も全然違います。
ネイチャーズウェイではとにかく「環境へ負担をかけないこと」を最優先に、手間暇をかけて作物であるハーブを育てています。
その甲斐あって、明野ハーブ農場は2013年に厳しい審査基準で知られる「有機JAS認証」(化学的に合成された肥料や農薬に頼らず、自然界の力で生産された作物につけられる有機食品の検査認証制度)を取得できました。
—―有機JAS認定、名前は知っている方も多いと思いますが、詳しく教えてください。
荒木:
有機JAS認証とは、農林水産省が定めた認証です。
この認証を取得するにはかなり厳しい審査基準があります。まず審査を受ける2年前から、農場にする予定の開墾された土地で、化学肥料や農薬を一切使わずに土壌づくりを行わなくてはなりません。そんな厳しい審査の準備を、山口農場長が一から始めて確立したんです。
有機JAS認証を取得した以降も毎年審査があり、通らないと認証更新ができません。実は有機JAS認証には使用を許可されている農薬も一部あるのですが、それすら使わないのが明野ハーブ農場のこだわりなんです。
徹底した有機栽培を貫く、明野ハーブ農場とは?
—―なんと! ただでさえ手間暇がかかり骨の折れる有機栽培を、この先も続けていくことって大変そうですね…。では、その徹底的に有機栽培を貫く明野ハーブ農場について詳しく教えてください。
荒木:
明野ハーブ農場は、山梨県の北杜市明野町にあります。富士山、南アルプス連峰、八ヶ岳連峰に囲まれた茅ヶ岳の南西部、標高800mのところにあります。山梨県北杜市明野町は日照時間が日本一長い場所として知られ、ハーブを育てるには良い面と悪い面の両面を持っている場所なのです。
—―良い面と悪い面?
荒木:
良い面としては、ハーブの主な原産地であるヨーロッパの気候に似ていること。雨が少なくカラッと乾燥した場所なので、ハーブが生長しやすいんです。
そして悪い面は、日照時間が長いこと。ハーブに限らず、植物は日光に当たれば当たるほどいいのでは?と思いがちですが、実は植物が栄養素に変えられる光エネルギーはごく一部で、それ以外は植物にとって負担になってしまうのです。
だからこそ、その負担に耐えて生き延びるために、ハーブは自ら身を守る成分を作り出すのです。それがタンニンやアントシアニン、フラボノイドと言われる、私たちを助けてくれる成分にもなるのですが…、そう考えると絶妙な場所でもあるんですよね。ハーブにとってはほどよく過ごしやすく、ほどよく過酷。
そんな場所にある明野ハーブ農場は3800平米くらいの大きさで開墾されており、そう広くはない土地にもかかわらず20種類ものハーブを育てています。
僕が初めて行ったときに印象的だったのは、農場の目の前にそびえ立つ富士山と美しく見渡せる八ヶ岳ですね。周囲を山々に囲まれており、空気も綺麗。
そして太陽の光も本当にたっぷりと降り注ぐ心地よい場所でしたし、農場で働く人々がいろんなことを教えてくれて、とてもワクワクしたのを覚えています。
—―素敵ですね。農薬や化学肥料などを一切使わない明野ハーブ農場で有機栽培された作物は、環境面だけでなく、逞しくワイルドに育って嬉しい栄養素もたっぷりというわけですね。
新たな作用が発見された「オウゴン」。いざ栽培してみると…
—―先日、明野ハーブ農場で育てているハーブ・オウゴンに新たに抗酸化作用が発見されたというお話を伺いました。(詳しくは「【研究員インタビュー・後編】研究者が注目するハーブ「オウゴン」の効果とは?」をご覧ください)
次は、実際にオウゴンを育てている荒木さんの立場から、オウゴンについてのお話を聞いてみたいです!
荒木:
現在農場では20種類ほどのハーブが有機栽培で育てられており、さまざまな文献などに記されている効果効能をベースに育てるハーブを選定しています。
その中でもオウゴンは、当初一部の効能しか解明されていなかったのですが、「何か秘められた効果があるのでは?」という憶測のもと、実験的に育てていたハーブなんです。
実は、他のハーブに比べて、格段に育てるのが大変なハーブでもあるんですよ(笑)
—―育てるのが大変というのはどういうことでしょう?
荒木:
通常、ハーブは苗の状態から畑に植えると、1〜2ヶ月で根が張ってくるんです。そうすると強く引っ張らない限り、抜けることはないのです。
でもオウゴンは根張りがとても弱く、周りの雑草を取り除こうとするだけで一緒に抜けてしまったりします。そのため、他のハーブよりも慎重に除草作業をする必要があり、どうしても手間と時間がかかってしまいます。
栽培の流れとしては、4月に苗を植え、順調に行けば7~8月に紫色の花を咲かせます。そして秋に花が枯れ、一冬を越します。そして翌年の春に新芽が出てきます。
その花が咲いたら枯れるのを待って、根の部分を収穫…と、およそ1年半かけて収穫するのですが、その間も少しでも雑に扱うと茎が裂けるように折れてうまく育たなくなってしまい、全く油断ができません。
そして一番大変なのは越冬です。オウゴンの有機栽培を始めてから10年経った今でも、まだオウゴンを掘り起こすと全体量の3割近くは枯れたり腐ったりしてしまっています。
その原因は明野ハーブ農場に雪が降らないこと。雪が積もってくれれば、雪が布団のように被さることで暖かく越冬できるのですが、雪が降らない地域では寒い中耐えてもらうしかない…。
もちろん網を被せたり、防風対策をしたり、水のあげ方を工夫するなど、私たちもできる限り試行錯誤しているのですが、未だにデリケートなハーブは育てるのが大変ですし、それは今後の課題でもあります。
栽培が大変なオウゴンではありますが、漢方では消化を良くしたり、解熱に使われており、ネイチャーズウェイの製品にも使われている実績のあるハーブなので、もっともっとたくさん育てていかなくてはと動いています!
一人でも多くの笑顔のために、農場でもチャレンジを続けていきます
—―お話の端々に、並々ならぬ愛情が感じられ、丁寧にハーブを栽培していることが伝わってきます。さらにオウゴンの新発見から、さらにチャレンジ精神に火がついているのでは?ということで、荒木さんがこれから挑戦したいことを聞かせてください。
荒木:
明野ハーブ農場は、スタートしてかれこれ10年ほど経ち、やっと安定してきたところなので、これからは珍しいハーブなどの栽培にも挑戦していきたい…、というかその予定がすでにあります(笑)。
少しずつですが、様々なハーブを育てて、より良い成分を発見したり、抽出方法を考案したりしていきたいですね。そして開発チームと、まだ世に出ていないような植物エキスを見つけ、商品化できたら嬉しいです。
最終的にはその化粧品を手に取ったお客さまが一人でも多く笑顔になれたら素敵だなと。
—―素晴らしいです。お客さまの笑顔を作り出す、というのはネイチャーズウェイの誰もが目指す一つの目標でもありますよね。では、農場スタッフの荒木さん個人としての願望はありますか?
荒木:
僕個人としては、有機栽培している明野ハーブ農場の様子をもっと多くの人に見て欲しいという想いがあります。
ただ、たくさんの方々に農場へ来ていただくと、例えば農場で使用を禁止している成分があるため虫よけスプレーが使えなかったり、思わぬ事故のリスクもあるので、一般公開をするのは難しいのが現状です。
しかし、植物を余すところなく使ってうまく循環させ、ハーブが育つ様子をもっと多くの人に間近で見て欲しい!ちょっと大きな野望になりますが、明野ハーブ農場のシステムをどこか別の場所で公開し、農場で育ったハーブで化粧水を作って見せたりしたいですね。
—―農場に足を運ぶことができれば、もっと有機栽培の素晴らしさを多くの人が知ることができますし、そこで採れたものへの愛着や感謝の気持ちが湧いてきそうですね。
では、最後に荒木さんにとっての「ナチュラル・オーガニック」とは何ですか?教えてください。
荒木:僕は自然が好きということもあり、ナチュラル・オーガニックとは、化粧品で自然との繋がりを感じられることだと思っています。
ハーブの栽培という分野からナチュラル・オーガニックコスメに携わることとなりましたが、もっと自然と化粧品との素敵な繫がりを作っていけたらなぁと思っています。
ちなみに、僕は普段からチャントアチャームのスキンケア用品を奥さんと一緒に使っています(笑)
—―農場への愛が溢れる素敵なお話でした。いつかこの記事を見ている方にも、明野農場に足を運ぶ日が来てほしいですね。本日は誠にありがとうございました!
インタビュースタッフ紹介
開発調査室
荒木真人
農業イベントを企画する会社に7年間在籍し、有機農家にて1年ほどの研修を経験。
「ハーブ栽培」「有機農業」に携わりたいとの思いから、2019年にネイチャーズウェイへ入社。趣味は旅行と読書と家庭菜園。
ネイチャーズウェイ自社農場「明野ハーブ農場」について
明野ハーブ農場は、山梨県北杜(ほくと)市にある栽培面積3,850㎡の有機栽培を行う自社農場。明野ハーブ農場がある土地は富士山、南アルプス連峰、八ヶ岳連峰に囲まれた茅ヶ岳の南西部、標高800mに位置する丘陵地で、日本一日照時間が長いことで知られています。また昼夜の寒暖の差が大きいため、過酷な環境下でも耐え忍ぶ生命力の高いハーブが育ちます。
農場では、全20種類のハーブを栽培し、製品の原料としても使われています。
▲農場で栽培しているハーブの一部です
■国が認めた「有機JAS認証」を取得
さらに、明野ハーブ農場では、2012年より「有機JAS認証」を取得しています。
<有機JAS認証とは?>
有機JASとは、2000年に改正された日本農林規格(JAS)によって、有機農産物などの表示を認証したもの。 認証は該当物資の生産方法の確認に始まり、製造工程、流通方法、商品の保管・管理とその責任者の制定に至るまで細かく設定され、そして認定検査官の事前審査とオーガニックに関する講習を修了して認定となります。
<取得条件>
・最低でも3年以上は土壌に農薬を使用していない
・有機肥料であっても化学成分や重金属が含まれていないものを使用する
・土壌の性質に由来する自然循環機能の維持増進を図る
・環境・衛生管理の整備(外部からの異物流入や混入も防止)
・上記に関する管理プログラムの制定とその実施
・上記に付帯する全ての事項に関する第三者認定機関による検査および年次更新の審査
日本ではオーガニックコスメに関する法的定義が存在しないのが現状ですが、食品分野においては世界各国ともに法的な規制のもと厳格な定義があり、日本では「有機JAS」がこれにあたります。つまり、有機JAS認証を受けたハーブは、国が認めた公的な有機(オーガニック)農産物だと言えるのです。